2026年5月23日|翻訳・編集 EIICHI JOURNAL|

プロジェクト概要
0Gラボス公式サイトより。「AIを公共財にする」を掲げ、分散型AIインフラの構築を進める。
分散型AIインフラを手がけるスタートアップ、0Gラボスが急速に存在感を高めている。独自開発のAIモデル公開、プライバシー推論サービスの立ち上げ、100億超のパラメータを持つモデルの分散訓練フレームワークの発表と、2026年に入ってからのリリースラッシュは目を見張るものがある。「AIを公共財にする」を掲げる同社のプロジェクト全容をまとめた。
0GLabsとは何か
0G Labsは、AIと仮想通貨の融合領域に特化した分散型インフラプロトコルだ。「ゼロ・グラビティ」とも呼ばれるこのプロジェクトは、AIのトレーニング・推論・保存・検証といった処理を、特定の企業や政府に依存しない分散型ネットワーク上で実現することを目指している。
創業チームはシリコンバレーを拠点とし、CEOのマイケル・ハインリッヒ氏がプロジェクトを率いる。2024年11月にはシードラウンドで4000万ドル(約64億円)の資金調達と2億5000万ドル(約398億円)のトークン購入コミットメントを獲得。その後も追加調達を重ね、累計調達額は3億6000万ドル(約573億円)超に達している。
KEY VISION
「AIを公共財にする」── 集中から分散へ
現在のAIインフラの大半はOpenAI、グーグル、アマゾンなど少数の米テック大手が握る。0Gラボスは、このAIの集中化こそが最大の課題だとみている。分散型のGPUネットワーク、改ざん不可能なデータ保存、ハードウェアレベルのプライバシー保護を組み合わせ、誰もが平等にアクセスできるAIインフラの構築を目指す。
技術構造 (4層構造のAI専用ブロックチェーン)
0Gラボスのインフラは4つの独立した層(レイヤー)から成る。それぞれが単独でも機能するが、組み合わせることで「学習→推論→保存→検証」というAIの全ライフサイクルをオンチェーンで完結させる設計だ。
| レイヤー | 名称 | 役割 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| ① | 0G チェーン | 決済・実行層 | テストネットで6億5000万件超のトランザクションを処理。AIネイティブなLayer1ブロックチェーン |
| ② | 0G ストレージ | データ保存層 | 50GB/秒のデータ可用性(DA)スループット。ファイルコインやアーウィーブを上回る速度を主張 |
| ③ | 0G コンピュート | GPU計算層 | 分散型GPUマーケットプレース。AIの推論・ファインチューニング・トレーニングを実行 |
| ④ | 0G DA | 検証・整合性層 | ERC-7857規格に基づくインテリジェントNFT(iNFT)など、AIの出力検証を担う |
2025年9月にアリストテレス・メインネットが正式稼働し、テストネットから本番環境への移行が完了した。メインネット立ち上げ時には、チェーンリンク、グーグル・クラウド、バイナンス・ウォレット、コインベース・ウォレット、メタマスクなど100社超がローンチパートナーとして参加した。
革新的訓練技術 「DiLoCoX ── 1Gbps回線で1070億パラメータを訓練」
0Gラボスが2025年6月に発表した分散訓練フレームワーク「DiLoCoX」(ディロコエックス)は、同社の技術力を示す最も象徴的な成果の一つだ。中国モバイルとの共同開発によるこのフレームワークは、一般的な1Gbps回線を使い、1070億パラメータの大規模AIモデルを分散訓練することに成功した。
「0Gはジェンセン・ファン氏の発言の9カ月前にすでに1070億パラメータのモデルを分散訓練していた。ヘッドラインが見逃したことがある」── 0Gラボス公式ブログ(2026年3月24日)より
ビットテンサー(Bittensor)のコベナント-72Bモデルがエヌビディアのジェンセン・ファン氏に言及されて話題になったのは2026年初頭だが、0Gラボスはそれに先駆けてより大きなモデルを分散訓練済みだ。同ブログは「ヘッドラインが見逃したことがある」と指摘し、自社の技術的先行を強調している。
4つの革新技術の組み合わせ
DiLoCoXが通常の分散訓練に比べて通信効率を357倍向上させた背景には、4つの技術の組み合わせがある。
- パイプライン並列処理 モデルを複数ノードに分割して処理し、計算と通信を同時並行で実行する
- デュアルオプティマイザー 各ノードがローカルでSGD更新を行いながら、グローバルモデルとの乖離を防ぐ二重最適化機構
- 1ステップ遅延オーバーラップ 前ステップの勾配を使いながら次の通信を並行処理し、待機時間をほぼゼロにする
- 適応的勾配圧縮 低ランク分解(ランク2048)とInt4量子化を組み合わせ、勾配データを1000分の1に圧縮する
| 手法 | 最終損失 | スループット(トークン/秒) | 備考 |
|---|---|---|---|
| AllReduce(従来手法) | 3.90 | 10.4 | ベースライン |
| DiLoCoX(全機能) | 4.20 | 3728 | 357倍の通信効率 |
| 1ステップ遅延なし | 4.15 | 2197 | スループット約40%減 |
| 勾配圧縮なし | 4.02 | 1168 | 精度は高いが低速 |
| CocktailSGD(比較手法) | 5.23 | 測定不能 | 収束困難 |
損失値がAllReduceより7.7%高い点は正直に認められており、「4000ステップのWikiText-103での訓練は概念実証であり、本番規模ではない」とブログ内で明示されている。ただし、1070億パラメータの規模で他の分散訓練手法が追いついていない点は事実だ。
プライバシー推論 0Gプライベートコンピュータ ── TEEでプロンプトを暗号化
2026年4月28日、0GラボスはTEE(トラステッド・エクスキューション・エンバイロメント)ベースの推論サービス「0Gプライベートコンピュータ」を正式に公開した。pc.0g.aiからアクセスできる同サービスは、AIエージェントや開発者向けにプライバシーを保護した推論環境を提供する。
ハードウェアが「見ていない」ことを証明する
インテルTDX CPUとエヌビディアH100/H200 GPUで構成されるハードウェア隔離環境の中で推論が完結する。入力データは暗号化されたまま転送され、出力には署名検証が付与されるため、サービス提供者側でもユーザーデータを閲覧できない。この「密封推論」により、プロンプトの秘密性をハードウェアレベルで担保する。
対応モデルと料金体系
2026年5月時点で対応するAIモデルは以下の通りだ。ディープシーク・チャットV3、アリババ「チェン(Qwen)3.6プラス」、ジャイプー・AI「GLM-5-FP8」のほか、5月15日にはディープシークV4プロが追加された。V4プロはアリババ・バイリアンのホスティング環境をTeeTLSアテストを通じたトランスポート層経由で接続する「検証可能フロンティア枠」として位置づけられる。
| モデル | パラメータ数 | TEE方式 | 用途 |
|---|---|---|---|
| 0GM-1.0-35B-A3B(独自) | 350億(活性化30億) | TeeML密封推論 | エージェント型コーディング・ツール使用 |
| ディープシークV4プロ | 1.6兆(活性化490億) | TeeTLS経由 | 汎用フロンティアモデル |
| GLM-5-FP8 | 7440億(活性化400億) | TEE内直接実行 | 高精度なエージェント推論 |
5月6日には0Gプライベートコンピュータへのクレジットカード決済機能が追加された。仮想通貨ウォレットを持たない一般ユーザーでもサービスを利用できるようになり、普及への障壁が一段低くなった。
独自AIモデル
0GM-1.0 ── 自社ネットワークで訓練した初の独自モデル
5月14日、0Gラボスは初の自社開発AIモデル「0GM-1.0-35B-A3B」の公開を発表した。アパッチ2.0ライセンスのオープンソースで、HuggingFaceで公開されるとともに、0Gプライベートコンピュータ上で即日稼働を開始した。
このモデルの特筆点は「自社インフラで訓練し、自社インフラで提供する」という完全なループを業界で初めて閉じた点だ。同ブログは「他の多くのWeb3 AIモデルは実質的にはWeb3モデルではない。米テック大手数社のフロンティアモデルをAPI経由で借り、トークンエコノミーで包んだだけだ」と批判している。
MoE設計でコスト効率を最大化
- アーキテクチャ MoE(混合エキスパート)型。350億総パラメータのうち、1トークン当たり約30億のみが活性化
- コンテキスト長 ネイティブで26万2144トークン、最大101万トークンまで拡張可能
- 推論モード デフォルトでthinkingモード(<think>タグ)が有効。仕様を声に出して確認してからコードを生成する
- 訓練環境 0Gコンピュート上の分散GPU。ベースモデルはチェン3.6 35B-A3B、ファインチューンと評価は0G独自
- キャッシュ料金 100万トークン当たり0.05ドル。20万トークンのコードベース再読み込みコストは約1セント
コンシューマー向けプロダクト
0G App ── ノーコードでAIエージェントをデプロイ
4月16日に正式公開された「0G App」(app.0g.ai)は、コードを書かずにAIアプリケーションを構築・デプロイできるコンシューマー向けプラットフォームだ。自然言語プロンプトだけでランディングページやダッシュボード、ウォレットトラッカーなどのウェブアプリを生成し、ワンクリックでVercelにデプロイできる。
背景にあるコンセプトは「会話とデータの所有権」だ。主要なAIサービスはプロンプトをサーバーに保存し、入力データを学習に使う。0G Appでは推論がTEE内で実行され、会話履歴は分散ストレージに同期され、ユーザー本人だけが復号鍵を持つ。OpenAI互換インターフェースを採用しており、既存ツールからの移行も容易だとしている。
ランチャーハブの3つのトラック
- アプリランチャー 自然言語でウェブアプリを生成・デプロイ(稼働中)
- トークンランチャー 0Gチェーン上でトークンを作成するガイド付きインターフェース(開発中)
- クローランチャー オープンクロー(OpenClaw)と0Gコンピュートを活用する12体のパンダ型AIエージェント(開発中)
機関投資家の動向
ゼロスタック社が1億700万ドルを投入、ナスダック経由での露出手段に
2026年4月、ナスダック上場のゼロスタック・コープ(ティッカー:ZSTK)が1億700万ドル(約170億円)の戦略的資金を0Gエコシステムに投入した。テキサス・ブロッカー・コープを通じた株式交換が完了すれば、ゼロスタックは1億4223万2948の0Gトークンを保有することになり、これは総供給量の約21%に相当する。
ハインリッヒ氏はプレスリリースで「この取引により、過去最も積極的なローンチ月に集中できる」と語った。機関投資家が上場企業を通じて0Gエコシステムへの露出を持つ初の事例となり、ビットコインをテザーの保有戦略になぞらえた動きとして注目された。
主要マイルストーン
プロジェクトの歩み

課題と今後のロードマップ
0Gラボスが積み重ねる技術実績は業界から注目を集めるが、課題もある。$0Gトークンの価格は2025年9月の最高値7.04ドルから現在は約0.46ドルと、93%超の下落を記録している。時価総額は1億3000万ドル前後にとどまり、プロジェクトの技術的野心と市場評価の乖離は大きい。
また、DiLoCoXのフレームワーク検証が4000ステップの概念実証にとどまる点や、帯域幅のシミュレーションがLinux tcによる仮想環境であったことは、本番環境での再現性を問う声につながりうる。
それでも同社のロードマップは野心的だ。2026年中にはサービスマーケットプレース・コンピュートメインネットの本格稼働、チェーン処理速度の10倍向上、AIエージェント経済の中核を担う統合SDKのリリースを予定している。「すべてのAIスタックのあらゆる層に、コンシューマー向けプロダクトを揃える」という目標は、2026年6月末までの達成を目指している。
「2026年第2四半期末には、我々のスタックのあらゆる層にコンシューマー向けプロダクトが揃う」── ジェイク・ハート氏(0Gラボス・バイス・プレジデント)、DLニュースへの取材(2026年4月10日)より
翻訳・編集 EIICHI JOURNAL


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